日本の物流業界を担うヤマト運輸と佐川急便。
長年ライバルとして切磋琢磨して来たこの両社が、日本の物流、特に宅配事業をここまで大きく、そして消費者にとっては便利なものにまでしたと言っても過言ではない。
しかし、両者の内情を見ると興味深い事実が浮かび上がってくる。
それは利益率だ。
そもそも運送業界は薄利多売である。
従来は「質より量」の仕事を追い求めて来たのだが、最近の社会情勢の変化に伴い、「質」まで求められている。実は両社には決定的な違いがあり、それが業績に大きく影響している。
その大きな要因とは、今では誰でも一度は利用したことがあるアマゾンの存在だ。
ここで両社の2018年度の決算数字を見てみよう。
ヤマト運輸
・ 売上高:1兆6,300億円
・ 営業利益:670億円(利益率:4.11%)
・ 経常利益:670億円
佐川急便
・ 売上高:8,357億円
・ 営業利益:438億円(利益率:5.24%)
・ 経常利益:449億円
売上高に関してはヤマト運輸の方が高いが、利益率は佐川急便の方が良い。
つまり、ヤマト運輸が「質より量」的な仕事をしているとも取れるし、佐川急便の方が効率の良い仕事をしていると考えることもできる。
しかし、この利益率の差にはアマゾンが大きく関わっている。
ヤマト運輸が業績悪化した諸悪の根源はアマゾンの配送
アマゾンの利便性については今更説明の必要もないだろう。
裏を返せばヤマト運輸のドライバーにどれだけ負担が掛かっているのかを意味する。
佐川急便は今ではアマゾンの荷物を取り扱っていない。2013年の4月にアマゾンから撤退した。
現在ではアマゾンの荷物は、ほぼヤマト運輸が取り扱っていると言っていいだろう。(2017年10月1日にヤマト運輸が宅急便の運賃改訂をしたことに伴いアマゾンは地場の運送会社(デリバリープロバイダ)と契約し配送網を構築しようとしている)
デリバリープロバイダ(デリプロ)について参考になる記事を見つけました。➔ デリバリープロバイダって何?追跡方法やアマゾンで買い物する時の注意点
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ビジネス的な観点からすれば、ヤマト運輸は佐川急便が撤退した際に、アマゾンに対してもっと強気に出ても良かったと思われる。しかし、ヤマト運輸の上層部とすれば「佐川急便を引き離すチャンス」と捉えたのだろう。
利益率のみで判断すれば、逆に佐川急便に後れを取ることになってしまったのは皮肉な結果と言える。
アマゾンの配送品質が凄かった訳ではない
今でこそアマゾンの評価は不動のものとなっているが、これほどまでに人気を集めた背景には、従来のネット通販事業よりも利便性が高い点にあった。
利便性とは、頼んだ次の日に届くということだ。
このシステムは、それまで注文してから何日も待たされるのが当たり前だった多くの消費者に衝撃を与えた。
そして、「アマゾン凄い!」という評判になるのだが、結局凄いのはアマゾンではなくヤマト運輸だった。
ネット通販事業は右肩上がり
これだけ世間の消費が鈍っていると言われている中でも、通信販売は需要が拡大している。
商品を購入する側(消費者)は益々わがままになり商品を安く購入するだけでは満足出来なくなり安く(多少は価格が高くても)早く商品が欲しいと思うようになった。
共稼ぎも多く働き過ぎと言われる日本社会ではアマゾンのビジネスモデルはアメリカ以上に浸透し易かったのではないかと思う。
そして、どのような小さなものであれ、物は「人」が運んでいる。
先日、ヤマト運輸が「ドローン」での荷物配送の実験をしていたことがニュースになっていた。もしかしたら将来は技術革新によりドライバー無しでも荷物を配送できる時代がやって来るかもしれない。
運送会社にとって今後はアマゾンとどのように向き合うのかというよりも、ネット通販とどのように向き合うのか、その為の体制作りが求められる。
アマゾンだけではなく、ネット通販事業そのものが急成長していることは、運送業界の負担増を意味している。
近年、ヤマト運輸や佐川急便はトラックの配送だけではなく、カートタイプの自転車による配送も行っている。今後はさらに小回りの効く配送手段が求められるかも知れない。
通販が便利なのは、ヤマト運輸や佐川急便に負うところが大であったことを消費者は気付いている。
今後はヤマト運輸や佐川急便のドライバーたちの負担は益々増えてくるだろうが、従来とは全く異なる業務スタイルを構築することが求められているのかもしれない。
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