ドライバーと会社の関係は契約形態により異なる。
正社員、契約社員、あるいは業務委託契約として運送業務を請負っているだけのドライバーもいる。
しかし、どのような雇用・契約関係であろうとも、企業側にはそれなりの責任が生じるという事例があったので、ここに紹介しよう。
それは2016年、福山通運の子会社と業務委託契約を結んでいた男性が長時間の業務、さらには突然の契約打切り通告により自殺したケースだ。その遺族が福山通運を相手取り5,400万円の損害賠償を求めた訴訟を提起したのだ。
福山通運との裁判の結果
本裁判の結果は、遺族と福山通運との間で和解が成立し、福山通運が遺族に対し3,600万円を支払うことで合意した。
この裁判が運送業界に大きな衝撃を与えた点は、和解金額というよりも、裁判所が業務委託契約であっても「労働者」として認めた点にある。
運送会社は大手・中小であろうとも自前のドライバーだけでは仕事をこなすことはできず、業務委託契約を結ぶケースが多く見られる。
自社のドライバーであれば福利厚生、手当や休日など労働環境もしっかりと整備しなければならないが、業務委託契約の場合は「労働基準法」の対象外である。
業務委託のドライバーは、社員ドライバーとほぼ同じ仕事をこなしているのにも関わらず、賃金やその他の待遇に大きな格差がある。
業務委託契約は、「成果主義」であるが故に、契約の相手企業が求める成果を上げなければ、双方が合意し契約書に記載された報酬を得ることができない。この為、規模の大小に関わらず業務委託契約が多く見られる要因ともなっている。
企業側には「働かせるだけ働かせればよい」との意図があったのは言うまでもない。しかしこの裁判において、裁判所が「業務委託であっても実質的な労働者」だと認めたことに意義がある。
つまり、業務委託だからとはいえ従来のように企業側の都合の良いように労働者を使ってはならないという「警鐘」を鳴らした裁判とも言えよう。
大手と中小運送業者の待遇差
ヤマト運輸や佐川急便といった業界の中でも大手に分類される業者のドライバーは、業界内では「待遇が良い」と思われている。
しかしそれは決して両社の「待遇が良い」のではなく、中小のドライバーの待遇が悪過ぎるから、比較対象として言われるにすぎない。
中小のドライバーでさえ休みなど週に1日あれば良い方だ。ましてや業務委託ともなればさらにそれ以下の条件で働かなくてはならないのが現状なのだ。
業務委託のドライバーの立場
建前としては業務委託のドライバーと企業は、「双方の合意」によって契約が締結されていることになっている。しかし、実情は企業側に有利な条件になりがちだ。提示条件に合意・納得しなければ業務委託契約は締結されないからだ。従って、業務委託契約そのものが、双方対等な立場で結ばれているとは思えない。
もしも断ったら契約はできない。そんな危機感から報酬・日程交渉さえも諦めているドライバーは珍しくない。
事実、先の裁判のドライバーは23年間、一日およそ13時間半働いていた。ある日顧客からクレームを受けたことが原因で会社から契約の打切りを通告されてしまい、その当日に自殺してしまったものだ。
まさに「使い捨て」の代表例と言える。
最近のドライバー事情
最近は、タクシー業界・トラック運送業界等において、「労働力の不足」が深刻化している。この運送業界も同様で、人手不足とドライバーの高齢化が問題視され始めている。
それまでドライバーの世界は「代わりはいくらでもいる」という認識が企業側の根底にあった。仮にドライバーが待遇改善を要求しても、「じゃ他に行って下さい」とう姿勢であった。しかし、状況は刻刻と変化し、今や「ドライバーが足りない」という状況になっている。
その為、企業は現有のドライバーを定着させる為に、待遇改善を余儀なくされている。業界最大手のヤマト運輸でもそれまでの未払いの賃金を支払うなど待遇改善に力を入れ始めている。
ドライバーが「代わりはいくらでもいる」から「なかなか見つからない」時代へと変わりつつある中で、徐々にではあるが、企業側も厳しい現実を認識し始めた。
こうした状況下で、業務委託契約のドライバーの待遇も改善されることを望むものである。
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